パエージャ その2

パエージャ2

怒涛のような6月が終わり、ようやくark.farmの管理に再着手しています。「パエージャについて書く」と豪語してから早半月(「料理人の矜持」もそれ以上に進まないですが決して忘れているわけではありません)、ようやく再開できます。

まず「パエージャ」という言い方について。「パエリアとは違うの?」と思われる方もいるかもしれませんが、一緒です。

スペイン語では「paella」と書きます。この「ll」というエルが2つ重なる部分、スペインでも各地域によってここの読み方が違います。例えば「lla」なら「ジャ」「リャ」「ヤ」とどれも「正解」の発音です。どの地域がどの発音というのは私も明言しかねますが、私が住んでいたバルセロナでは「ジャ」と読む人が多かったので私は「ll」の発音はそれに合わせるようにしています。

私が以前経営していたレストランでは「パエージャ」は通常メニューではなく要予約としていました。何なら最初はメニューにも入れておらず、その後お客様から強い要望がありメニューに加えた、という経緯があります。

「スペイン料理=パエージャ」というのは米を主食とする我々日本人ならではの固定観念でしょうが、スペインの全土でパエージャが食べられるわけではありません。むしろ発祥地であるバレンシア州から離れるとそれほど機会は多くないといっても過言ではないでしょう。

その理由の一つとして「面白い程の州の『独立性』」が挙げられます。国の成り立ちからして「州連合がムスリムからイベリア半島を奪還した(レコンキスタ)」という流れがあり、その後「スペイン継承戦争」や「内戦」を経て各州に確執が生まれ、現在もそれぞれの州が独立を虎視眈々と窺っています(特にカタルーニャとバスク)。

その確執は言語や文化、果ては料理にまで及ぶため、カタルーニャで他州の料理を提供していれば、そこは「旅行者用」か「他州コミュニティ用」のお店だと思って間違いありません。日本では別に東京でタコ焼き屋さんがあっても「大阪コミュニティ用」ではないですよね。

ちなみに冒頭「スペイン語では」と書き出しましたが、「スペイン語」という言い方でさえ、イベリア半島中央の住民以外は嫌がります。正確には「Castellano」と言います。カスティーリャ語(ここは『リャ』)という意味です。カスティーリャ地方以外に住むスペイン人と話す時はくれぐれも気を付けてください(本気で嫌がります)。

さて大分脱線しました。私のレストランで当初、メニューに「パエージャ」を組み込んでいなかった理由はスペインの州同士の確執とは無関係です(じゃあ今までの話は一体…)。

私がスペイン料理に興味を持ったきっかけ、及び料理人になるきっかけになったのは24歳の時、東京の日本橋に新しくオープンしたコレド日本橋ANNEXの「サンパウ」というレストラン(昨年永田町に移転)を訪れたことです。

「『スペイン料理=パエージャ』というのは米を主食とする我々日本人ならではの固定観念」と偉そうに先述しましたが、その頃の私も全くその通りで「スペイン料理のレストランに行く=パエリアを食べに行く」と思っていたので同行者から「スーツを着てこい」と命じられた時は頭の中が「?」となりました。

しかし「サンパウ」で食事をしたことが自分の料理のルーツとなり、現在の発展形に繋がっているのだとしたら、ある意味「パエリア」よりも良かったと思っています。

詳述すると長くなるので割愛しますが、とにかくそこで「パエリア」は提供されませんでした。自らの予想を覆す「スペイン料理がある」と知れたこと、体験できたことが自身のお店をオープンする時のコンセプトにも影響を与え、コース料理を主体とした「純粋ではないスペイン料理」のレストランを誕生させました。

まあしかし自身の感動が他者にそのまま100%伝わるわけもなく、、結局はお客様からの要望に押される形で「要予約メニュー」としてパエージャは私のレストランにも登場することになります。

文字で書くと「渋々感」が出ているかもしれませんが、もちろんパエージャは好きですし、メニューとして加える以上は美味しいものを、と試行錯誤を続けました。

次回はパエージャの歴史や原材料について書きたいと思います。