レストランの意義

レストラン店内

昨晩、兵庫県姫路市でイタリアンレストランを営む先輩から電話がありました。着信の段階で予感はありましたが、やはりこのコロナ禍におけるレストラン営業についての話でした。

「周りの飲食店はほぼ営業を『テイクアウト専門』に切り替えている。でも自分はそれをやりたくない。もちろん付け焼刃のテイクアウトだけで家賃を支払えるとは思わない、という理由もあるが、何よりも店内でお客さんに食事を提供する場所こそが『レストラン』であると思うからだ。だから通常営業している。」

しかし国の緊急事態宣言対象地域となっている兵庫県で、個人店がそのように営業していると周りから意見を言われることもあるようです。実際には兵庫県はもちろん、東京都でも愛知県でも飲食店は営業自粛要請の対象とはなっていません(夜の営業時間短縮要請はあります)。しかし一種の同調圧力がかかり「営業している=悪」と思われてしまう風潮もまたあるようです(特に狭い地域において)。

もちろんそのお店は細心の注意を払っていて、人が触れる場所のこまめな消毒、店内に入れる人数の制限、通常よりも早く食べ終えられる特別ワンプレートの用意、そして夜の営業時間短縮など思いつく限りの感染拡大防止策を行っています。

「例えばスーパーは営業自粛要請対象ではない。もちろん必需品が揃っているからそれはわかる。でもスーパーでは不特定多数の人間が触る商品が置かれていて、レストランにいるよりも人との距離が近いこともある。それと比べて自家用車でレストランに来て食事をするという危険性はいかほどなのか。」

私の意見も聞かれたので、週一甘味処を休業にしたこと、そこに至った理由を話しました。端的に書くと、私は今回のコロナ禍の終息は「皆の不安がなくなる」段階だと思っています。それにはワクチンの開発が一番ですが、それ以前にできることとして実効再生産数を減らす、ということもあると思っています。そのためには原始的ですが「人と会わない」ことが一番で、その効果は北大の西浦教授の試算や他国で先駆けて行われている都市封鎖による実際の数字として如実に表れています。いくら日本で死亡率が低くても今回のことが「未知」である以上、緩い制限を設けたところで皆の不安がなくならなければ日常には戻らないと思っています。

またそれがマクロ的な私見であるならば、ミクロ的な私見は「自分のお店に来る予定お客さんには安全でいて欲しい」「自分のお店では感染者を出さない」というものです。常連さんの中にはご高齢の方もたくさんいらっしゃり、重篤化率と年齢には相関があることが明白です。

以上の意見を伝えました。これは仮に現在自分のレストランを経営してたとしても変わりません。ただし、営業でも休業でも家賃や人件費をはじめとした固定費は必ずかかります。それを払うためにはきっとテイクアウトかデリバリーを始めるでしょう、ということも伝えました。

その電話の後で『レストランの意義』ということを考えました。
先輩の気持ちはとてもよくわかります。同じオーナーシェフ(私は「元」ですが)として、「作りたての料理を提供して人を楽しませたい」ということは料理人たる所以でもありますし、またそれができる「場所」こそがレストランの意義なのだと思います。

自分の意見とは違いますが、先輩の選択を支持しています。このような時だからこそそういう場所が僅かでもあることが誰かの救いになるのかもしれませんし、国や自治体からの要請がない以上選択は個々に委ねられると思うからです。

しかしひとつ言いたいのは、選択の自由があったとしてもこの未曾有の事態に及んでは自由度が低いということです。東京の知り合いの和食店は3月下旬から休業しており、その間も固定費は払い続けています。全国にそのような飲食店があるというニュースも見ます。

もちろん、飲食店だけが大変なわけではないのはわかっています。ただ私は飲食業界の人間です。なので三ツ星レストラン「HAJIME」の米田肇氏が発起人となった「新型コロナウイルスの影響による飲食店倒産防止対策を求めます」という運動にネット署名しました。

https://www.inshokuten.com/foodist/article/5727/

15万人を超えてからの政府へ提出予定で、現在12万3千人ほどが署名をしています。

飲食店は「水商売」の一種です。流れが止まると枯渇します。しかし一方で黒田如水の水五訓では「自ら活動して他を動かしむるは水なり」とも云われます。この水の流れが大きな山を動かす勢いとなることを期待しています。

※蛇足ですがCDC(米疾病予防管理センター)によると食べ物からの新型コロナウィルス感染に関しては今のところエビデンスがないとのことです。同じウィルスでもノロウィルスとは違うということです。提供される食べ物に関してはご安心下さい。

※4月17日追記
本日、中部大学特任教授の武田邦彦氏が「都市封鎖や自粛による『人と会わない』行為が感染拡大を防げているとはいえない。それらの行為をしなくても感染拡大は防げている。」とのことがグラフと共に示されていることを確認しました。また「レストランよりスーパーの方が危険である。」ということを人-人感染よりも人-物-人感染の方が影響があるという具体例を挙げて示されていました。

「人と接触をしないことが感染拡大を防げている」という私見は、私のグラフの見方が間違っていたようです。以上、この件に関してはこれで訂正とさせて頂きます(これからも様々な意見が出てくると思うため)。