前回の投稿から約1年も経ってしまい、自分でも内容を全く忘れていたので初めから読み直したくらいです(お恥ずかしい)。
その1からその4までは「食のテーラーメイド化」を念頭に、人間の五感がどのように美味しさに影響を及ぼし、五感からの情報によって脳がどのように美味しさを感じるのか、を書いてきました。
1年越しの続きは食べ物の「好き嫌い」と「はまる」理論についてです。
胎児の味蕾は妊娠8週前後から形成され、20週前後には機能し始めるといわれています。
フィラデルフィアにあるMonell Chemical Senses Centerの2001年の実験で、
①妊娠中に人参ジュースを300ml週4日飲んだ女性
②妊娠中に水を300ml週4日飲んだ女性
③出産後に人参ジュースを毎日飲んだ女性
の3つのグループに分け、それぞれの女性の乳児を調べた結果、①グループの乳児たちが一番人参ジュース及び人参そのものを好んだ、という結果が出ました。
この結果は妊娠中の女性の食経験がその後の子供の味覚に影響を及ぼす、といえます。
また好き嫌いがうまれるのには遺伝的要素があるともいわれています。大きな項目でいえば「甘味」「塩味」「旨味」はそれぞれ「糖」「ミネラル」「アミノ酸」という生きていくために必要な成分を判断する受容体、「酸味」「苦味」はそれぞれ「腐敗」「毒」という生きていくために不必要な成分を判断する受容体、として人間に備わっています。つまり「酸味」「苦味」が苦手(特に幼少期において)というのは「遺伝的に間違っていない」好き嫌いと言えます。
小さな項目では「TAS2R38(苦味レセプター)」や「OR6A2(嗅覚レセプター)」などといった特定遺伝子の多寡が偏食に影響する、という研究もされています。
また「食経験」も好き嫌いに影響するようで、誰しもが離乳食を離れ様々な食べ物を「初めて食べる」瞬間があり、幼い頃から食経験が豊富な人の方が初めて食べたものに対して好き嫌いがないという研究結果もあります。
では「好き」という感情があふれすぎて「はまる」作用はどうでしょうか。
前述したように大脳皮質の第2次味覚野(眼窩前頭皮質)では味の認知学習を行います。そこで「美味しい」→「好き」と感じる情報は記憶され、次から「報酬系」というシステムを作動させ、腹側被蓋野という部位から脳内麻薬ともいわれるドーパミンを放出し、その人の気持ちを「アゲ」ます。そしてその情報は摂食行動を司る視床下部にも伝えられて摂食を促進させます。これが「はまる」作用といわれています。
その反対に「報酬系」が働かなければその食べ物に飽きます。ある意味これは我々人間が雑食性であるからこそ、必要な栄養素を効率よく取り入れるため(上記の味覚受容体の話と似ている)、また栄養バランスを自動的に補正するためのシステムと考えられます。
※ただアメリカで成人の平均体重が1960年から2010年までの50年間で「10kg以上増加している」という事実を鑑みればシステムをアップデートする必要があるのかもしれません。
さて「五感」と「脳」の話はこれくらいにして次回はもう少し柔らかいテーマを持ってきたいと思います(いつになるかわかりませんが)。