料理人の矜持 その2

ヒトの脳

私はark.のホームページ内で「美味しさは感情である」と述べています。考えてみたら当たり前の話で「美味しい」は「嬉しい」や「悲しい」と同じ形容詞です。

ではその感情を司るのはどこか。例えば「心地良い」音楽なら聴覚が、「美しい」絵画なら視覚が窓口です。やはり「美味しい」料理は味覚なのでしょうか。

味覚は「甘・酸・苦・塩・旨」の受容体があります(蛇足ですが脂肪酸やカルシウムの味覚受容体もあるとされており、脂肪酸に関しては今年に入り味を伝える神経が鼓索神経の一部にあると九州大学五感応用デバイス研究開発センターで発見されました。カルシウムも他の生物においては味覚受容体及びそのタンパク質がある程度特定されているようです)。

蛇足が続きますが「舌の先端が甘味、奥が苦味、などの『味覚地図』」は間違いで、味蕾は舌上にまんべんなく分布し、さらには軟口蓋、喉頭蓋にも存在します。

さて、ここまで書いた「味覚」ですが、果たして「美味しい」の窓口なのでしょうか。答えは「否」、鼻をつまんだ状態で飲食をすればすぐにわかります。「何も味がわからない」と。

味覚の5種類の受容体に対して、嗅覚の受容体は396種類、呈味成分も酸味は水素イオン、塩味は塩化ナトリウム、旨味はグルタミン酸やイノシン酸など、と数えられる程度ですが、香気成分は数十万種類あると推定されています。

イエール大学教授の神経科学者であるゴードン・M・シェパード博士は著書『美味しさの脳科学』で嗅覚がどれだけ「風味」に作用しているかを述べています。

その中でも『ヒトは「レトロネイザル経路」と呼ばれる所謂「鼻から抜ける香り」を感じる能力が他の動物よりも優れているため、「食」を楽しみ、そして進化することができた』という高説は非常に興味深いです。

ではその「嗅覚」こそが「美味しい」の窓口なのでしょうか。これも答えは「否」だと思います。やはり香りだけでは「美味しく」食べられません。

残るは「触覚」「聴覚」「視覚」ですが、長くなってきたので次回に続けます。