料理人の矜持 その6

ピアノ

話を少し整理します。
私が思う近未来の食における最大テーマは「食のテーラーメイド化」であり、それが実現した際(例えばAIによる個々人の好みに合わせた自動調理など)に「われわれ料理人はどうするか」というのがこのブログの本筋です。

まずその2から前回その5までは根本的に「美味しい」とはどういうことかを考え、人間は味覚だけではなく五感をフル活用して脳で美味しさを感じているということを書いてきました。

これは私が料理を作る際に意識している「美味しさ≒楽しさ」という方向性がそこまで間違ったものではない、ということを再確認する作業にもなりました。

さて上記を踏まえてここからは「私がこれからどういう料理を作っていくか」編を書いていきます。

はじまりはリヒャルト・ワーグナーです。

ワーグナーは言わずと知れた作曲家で「タンホイザー序曲」「ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲」「ワルキューレの騎行」など有名なオペラの曲を世に送り出しています。

プライベートにおいては唯我独尊、傲岸不遜、不貞不義、と悪口の代表格であるような四字熟語で表現できる人物だったようですが、殊音楽に関してはほぼ独学にもかかわらず天性の才能を発揮し、ベートーヴェンから始まったロマン派音楽を終焉に導き、音楽(特にオペラ)を次のステージへ上げた偉大な人物でした。

「次のステージ」とは何か。私は専門家ではないので正確に書けるかどうかわかりませんが、私の料理の方向性にも関係する足跡を2つ挙げます。

まずワーグナー以前に主流であったイタリアオペラの「独唱→朗唱→二重唱→朗唱→合唱」のような調性がとれた形式を否定し、途切れることのない「無限旋律」を生み出し無調音楽の礎を築いた点。

そしてワーグナー以前は分業体制であった「劇作・歌詞・大道具・衣装・劇場建築」といったオペラに関わる全ての部署で、作曲家であるワーグナー自身が携わりオペラに統一感をもたらした点。

後者はマクロな視点でも捉えられ「音楽・文学・舞踊・絵画・建築」という種々の芸術を総合的に表現した、という意味で「総合芸術」と呼ばれます。

総合芸術。
ワーグナー以降、この言葉は音楽だけではなく様々な分野の芸術家たちに影響を与えました。実は私が総合芸術という言葉を知ったのはワーグナーからではなくスペインが誇る天才建築家アントニ・ガウディからです。

次回へ続きます。