料理人の矜持 その9

2016年クリスマスコース

2013年6月の信楽を皮切りに六古窯(もちろん、瀬戸も含まれます。2013年の7月に来ました。その時はまさか5年後に「住む」ことになるとは夢にも思っていませんでしたが)、益子、唐津、九谷、萩、沖縄の読谷や佐渡島の無名異などほぼ全国の焼き物の産地を周りました。

日本の焼き物文化のなんと奥深いことか。
料理人として器に対する向き合い方が如何に浅かったかを痛感しました。そして痛感したことにより、ある決意を固めました。「器も自分で作ろう」と。

先の話、ワーグナーの実践した総合芸術の狭義は「分業体制の廃止」でした。つまり一つのテーマを設けた総合芸術と呼べるコース料理を提供するにあたり、そのための器を自分で作ることは(決意を固めずとも)必然だったわけです。

そして2014年8月から陶芸教室に通い始めます。そこでの最終ゴールは2016年12月のクリスマスコースを全て自分のお皿で提供する、ということでした(その時には既に2017年7月の10周年で閉店することを決めていたので、2016年が最後のテーマを設けたコースを提供できる年でした)。

その2016年のテーマは「リマスタリング(昔の音源を現代の技術でより良くする、という音響用語です)」。それまで毎月変え続けてきたコースメニューから「BEST版」メニューを作り、同時に「そのメニューのための器を作る」。料理も器も再構築し「より良くする」という意味を込めての「リマスタリング」です。

そのコースは好評のうちに終え、約半年後にお店は閉店しました。

さらにその半年後、、2018年からは醸造学を学ぶ予定でしたが、なんの因果か予定は変わり、5年ぶりに瀬戸へ。そして再び陶芸へ。と現在に続いていきます。

次回へ続きます。