4皿目は「チョリソ イベリコデベジョータのスティック」です。
パートフィロという極薄の生地を二重にして、イベリコ豚のチョリソという腸詰、細切りにした林檎のソテー、少量の桜の花の塩漬けを巻いて焼いた料理です。林檎のピュレを煮詰めて濃厚にしたソースを添えています。
ここでの食材蘊蓄は「チョリソ」と「イベリコ豚」についてです。
「チョリソ」といえば「辛いソーセージ」を連想される方が多いと思いますが、本場スペインのチョリソは辛くないものがほとんどです。本来チョリソとは「香辛料(特にパプリカパウダー)を多く入れた豚肉の腸詰」を指します。ではなぜ日本のチョリソは辛いのか。
16世紀にスペインが中南米を征服した際食文化の交流がおきました。その時にチョリソもスペインから中南米へと伝わったのですが、特にメキシコでは「ニョラ」と呼ばれるパプリカを使った「チョリソ ピカンテ(辛口の意)」が好まれたようです。そこから約300年経ち、明治日本のアジア以外の国では初の平等修好通商条約を結んだメキシコからチョリソが伝わり日本独自の辛いソーセージ「チョリソ」が生まれたと考えられます。
「イベリコ豚」は2004年に日本への輸出が解禁になってから一気に知れ渡るようになったスペインを代表する豚肉です。輸入された当初こそ高級豚肉のイメージがありましたが、今やスーパーや居酒屋で普通に見かけるようになりました。しかしこの「普通」というのは曲者で、それがイベリコ豚のイメージと味を大きく劣化させています(と私は思っています)。
イベリコ豚とは「イベリア種」と呼ばれるスペイン西部にしか生息しない「黒豚」のことです。14か月の飼育期間のうち2か月間、コルク樫やトキワ樫などが立ち並ぶどんぐりのある森(デエサ)に放牧(モンタネラ)し、どんぐりをはじめとした自然の産物のみで体重を50%以上増加させます。そのようにして育ったイベリコ豚の脂はオレイン酸を豊富に含み、ナッツのような香りと非常に柔らかい口溶けが特徴で、肉質を一層上品にします。
さて上記がイベリコ豚の説明なのですが、これに当てはまるイベリコ豚はわずか「数%」と言われています。まず、50%以上イベリコ豚の血が混じっていればイベリコ豚と名乗れます(白豚であるデュロック種と合わせる場合が多い)。そしてどんぐりを食べなくても(セボ・デ・カンポ)、狭い豚舎で飼料だけを与えられて育っても(セボ)、イベリコ豚と名乗れます。
しかしそれらのイベリコ豚は「ベジョータ(スペイン語でどんぐりの意)」と呼ばれる上記のイベリコ豚とは似ても似つかない味わいです(もはや血統50%のセボはイベリコ豚の味わいではありません)が、それでもイベリコ豚として販売されます。「普通になった」ことの弊害にはこのような一面もあり、料理人としては残念です(イベリコ豚は本当に美味しい)。
以上、チョリソ イベリコデベジョータについての蘊蓄でした。
5皿目に続きます。